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【心理コラム】黄昏に あずけた心は 憧れか

  • 心理

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  • その他(コラム)

こんな方に読んでほしい

  • 勉強の合間に、暇つぶしや息抜きがあるほうがいい方

  • 受講生の方、全般

記事から得られること

  • 「哀愁」における、「ふ~ん」「へー」「ほっ」

シリーズ
小林厚志の「やっぱり頑張ろう」

自称下町心理学者の小林厚志が、身近にあるのに何となく理解し難い「心」「精神」「意識」をテーマに、
まるで街ブラかのような感覚で「ふ〜ん」や「へー」をお届けします。
お勉強の合間の息抜きに、ごゆるりとお付き合いください。
※学者口調を意識したので敬語が省かれてることをご容赦ください。

ギラギラした夏が過ぎ、あっという間に日が暮れる。
厳しかった太陽が、どことなく恋しくなるのは私だけであろうか。

『秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ』

左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ 1090~1155)

普段は気にも留めぬ和歌の味わいに、浸りたくなる季節である。
「哀愁」…
この心情を、哀しい秋の心と書くのは、うまい表現だ。
秋特有の物哀しさ、せつなくいとしいうら哀しさというのは、実に興味深いものである。

秋といえば…
スポーツの秋、読書の秋、豊穣の秋、食欲の秋、行楽の秋など、
比較的、楽しみなことが多いハズにもかかわらず、
私たちは、秋特有の美しさや物哀しさを感じている…

哀愁について、科学的な説明は可能である。

☆セロトニンの減少
日照時間が最も長くなる夏に対して、秋は「秋の夜長」というように、日照時間が徐々に短くなる。
日照時間が短くなるにつれて、人の脳内では「セロトニン」という気持ちを安定させる神経伝達物質が減ってゆく。夏に比べて、秋はセロトニンが減少しやすいため、どことなく寂しい気持ちを感じやすい。

☆1日の寒暖差
夏は35度など残暑が続く一方で、秋は気温が下がりはじめるため、一見過ごしやすい季節。しかし、朝晩は少し肌寒く感じ、日中はまだ暑さが続きやすく、1日の寒暖差も感じやすい季節でもある。寒暖差から体温調節がうまくいかなくなると自律神経が乱れやすくなる。自律神経は心身の調子を安定させる神経系であるため、乱れてしまうと「なんだか悲しい」など気持ちの不安定さを感じるという。

これらの説明で、哀愁のすべてが語られている気がしないのは私だけであろうか。

あの、美しく色づいた紅の葉…
あの、冷たくも優しく触れる風たち…
あの、懐かしみを含んだ草木のメロディ…
あの、静けさに向かう山々の香り…
あの、物憂げな表情を見せる夜空の宝石…

これらを、神経伝達物質や自律神経の働きだけで語ってしまうのは、
どこかもったいないように感じるのである。

※9月某日「淡路島にて撮影」

太陽の影響ではないかという話もある。

「秋の日はつるべ落とし」というように、秋になるとあっという間に日が暮れ、
真夏の太陽が、なんとも名残惜しいものになる。

あらゆる動物に備わっているという、概日リズム(サーカディアンリズム/体内時計)に
変調をきたす問題ではないかと。

最近の夏場は、日陰を好んで行動することが多いが、
その日陰も太陽があってこそ作り出されたものだ。

どこまでいっても私たちは、太陽に生かされ、太陽とともに生きている。

その太陽が、顔を出す時間が短くなるというのは、
ある意味では、「あ〜もう終わる…」という死活問題だ。

その一方では、夏を乗り切った達成感、満足感、を感じることもあるだろう。
秋の味覚を食するときには特に「頑張ってきてよかったなぁ〜」と感じやすいのではなかろうか。

この、ある意味での死活問題「あ〜もう終わる…」というのと、達成感や満足感「頑張ってきてよかったなぁ〜」が入り混じる感じを、哀愁と言っているのかもしれない。
そう考えると、私たち人間以外の動物たちや植物たちも、太陽に生かされている限り、私たち人間と同じように、哀愁を感じているのかもしれない。

今年の中秋の名月は、満月に近い形で拝むことができた。

うっとりと眺めていると、手を伸ばせば触れられるのではないかという感覚が込み上げてきた。

まるで、夢の中で空を飛ぶかのような感覚だ。

お彼岸に入り、向こうの世界とこちらの世界が最も近くなるといわれているが、私たちのご先祖様たちも、こちらの世界がこんなに暑いことに驚いてしまうのではなかろうか。

それらのことに想いを馳せていると、そこはたとなく感じるのが哀愁であろう。

しづかにきたる秋風の
西の海より吹き起り
舞ひたちさわぐ白雲(しらくも)の
飛びて行くへも見ゆるかな

道を傳(つと)ふる婆羅門(ばらもん)の
西に東に散るごとく
吹き漂蕩(ただよわ)す秋風に
飄(ひるがえ)り行く木の葉かな

あゝうらさびし天地(あめつち)の
壺(つぼ)の中(うち)なる秋の日や
落葉と共に飄(ひるがえ)る
風の行衞(ゆくえ)を誰か知る
風の行衞(ゆくえ)を誰か知る
                             若菜集 秋風の歌
                               島崎藤村より一部抜粋

【通釈】
人知れず静かに訪れる秋風が西の海上から吹き起こる。
その秋風に舞い立つように白雲が飛んでいくありさまもよく見える。
教えの道を伝えるバラモンが東西に散らばるように、漂い動く秋風に木の葉も翻弄されるようだ。
心から寂しいのは天と地の深い窪みのなかで世俗にかかわりのない秋の日である。落ち葉とともにひるがえる秋風の行方は誰も知らないであろう。

先日、徳島県にある、知る人ぞ知る神社、「賢見(けんみ)神社」を参拝させていただいた。

帰り道で見た夕日に心奪われ、目頭が熱くなった。

私たちは、本当に美しいものに触れたとき、涙を流す。

もう、語るのはやめよう。

時として言葉は野暮になる。

きっとあなたも感じているはずだ。

この美しさと哀愁を。

黄昏に あずけた心は 憧れか
この目に映るは 秋の輝き

やっぱり頑張ろう…

そう呟いた心の音が、鈴虫が奏でるメロディーに入り混じる。

心の旅は続く…

              

小林 厚志

  • 心理

担当

大阪梅田校

所属

脱サラ後、2016年に渡米、資格取得。大手社会人スクールにてNLP講座など担当。 心理学・心理カウンセリング・メンタルコーチング・コミュニケーション系の講師として登壇。年間登壇数150回以上。 パーソナルサポート事業ではメンタルコーチ/心理カウンセラーとして700件以上サポート。 「柔らかい人柄」と「ええ声」で瞑想ファシリテーターとしても活動。

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