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【日本語教師】受験体験レポート「令和6年度日本語教員試験」を受けてきた!

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こんな方に読んでほしい

  • 今後日本語教員試験を受けようと考えている方

  • 日本語教師養成講座受講中の方や修了生

記事から得られること

  • これからの日本語教師に期待されているであろうこと

  • 日本語教員試験 受験後のレポート

第1回の日本語教員試験が実施されましたね。
ヒューマンアカデミーの講師の多くも資格取得を目指していきます。
皆さんは「にほんご日和」に更新された受験体験レポートをご覧になりましたか?
「にほんご日和」はこちら
是非この「アシストのススメ」でも、受講生・修了生の皆様に是非ご紹介できればと思います。

日本語教師養成機関で扱う学習項目についても今後、文部科学省からの規定が示されることになりますが、今回実施された日本語教員試験の内容も一つの指標となるでしょう。
多くの方が気になる疑問を取り上げる機会も今後、ヒューマンアカデミーでセミナーとして企画予定ですので、ご案内をお待ちください。

では、早速今回、受験レポートを執筆頂いた講師のご紹介です。

プロフィール

佐藤 理恵子氏。
養成講座420時間を受講し日本語教師になり、日本語学校で働きながら日本語教育能力検定試験に合格。その後シンガポール、タイでの日本語教育経験を経て、帰国後は東京大学大学院にて修士号を取得。現在は都内の大学で留学生に日本語を教えながら、大学院博士課程で研究を継続。ヒューマンアカデミー日本語教師養成講座講師。一児の母。

資格取得を目指す理由について:今後の活動に、登録日本語教員資格が必要ですか?

登録日本語教員は、国内の認定日本語教育機関(いわゆる日本語学校等)で働く上で求められる国家資格です。しかし、実際にはその他の日本語教育の現場でも事実上国家資格が必要になってくるだろうと予想されています。例えば、最近公開されていたある大学の日本語教師求人募集には「登録日本語教員の国家資格を取得見込みであること」が応募要件として記載されていました。実際、今回の日本語教員試験の問題を見ても、アカデミックライティングの指導や地域の日本語教室の場面が登場しており、日本語学校以外の現場も想定された出題になっていることは明らかでした。登録日本語教員は、制度上は認定日本語教育機関で教えるための国家資格ということになっていますが、実質的には汎用的な日本語教育の適性を測る試験として機能していくことは間違いないと思います。

私自身、現在は認定日本語教育機関での仕事はしていませんが、今後の活動を踏まえて、資格を取得することに迷いは全くありませんでした。何より、日本語教師が国家資格になるということは社会的にその立場を認められたということだと感じ、「ついにこの日がきたか」という嬉しい気持ちで出願しました。

日本語教育能力検定試験との違いについて、どう思われましたか?

試験1日を終えた素直な感想としては「疲れた~!」でした。特に、午前の試験は90分から120分、聴解の試験は30分から50分と、日本語教育能力検定試験(以下検定試験)よりも長くなっているので、集中力を保つのが大変でした。また、問題自体も検定試験と比べて決して易しいとは言えないので、試験中は脳をフル回転させていました。

難易度自体は検定試験とあまり変わりませんが、内容としては検定試験よりも新しい知識、現代に合ったリテラシーや教育観が求められていると感じました。例えば、

(1)リモート時代の著作権リテラシー

著作権に関する問題がかなり多かった印象です。私が確認した限りだと基礎試験では大問1問分、応用試験(聴解)では小問1問、応用試験(読解)では小問2問分が著作権からの出題でした。また、その内容も「学内のLMSに資料をアップロードする」とか、「YouTubeを学生に視聴させる際に、URLを共有して個々に視聴させる」といった場面が登場しており、デジタル化への対応が求められていると感じます。2018年の法改正で新設された「授業目的公衆送信補償金制度」に関する出題もありました。

(2)新しい日本語教育観に対する理解

2021年に「日本語教育の参照枠」がまとめられ、現在、日本語教育業界は価値観の刷新を求められています。この範囲からの出題は当然多く、「「日本語教育の参照枠」活用の手引き」(文化審議会国語分科会日本語教育小委員会)の本文がそのまま出た問題もあったほどです。具体的には、Can-doをもとにしたカリキュラム開発ができるかとか、CEFR(ヨーロッパ共通言語参照枠)の理念を理解できているかといった問題が出題されました。また、日本語学習者のレベルについても、従来の初級・中級・上級ではなく参照枠のA1からC2という熟達度で示されており、「B1レベルの学習者ができるのはどんなことか」を選ぶ問題もありました。

(3)多様な評価法に関する知識

近年は評価法も多様化しています。今回の試験では、テストによらない新しい評価法であるルーブリックやポートフォリオの活用法が問われました。また、総括的評価(期末テスト)だけでなく形成的評価(小テスト)をこまめに行う必要性を説く問題もありました。そして応用試験の最後には、テストの識別力を計算する数学のような問題が立ちはだかり…。評価法に関しては、様々な角度から数多くの出題があったという印象です。

(4)AIとどう共存する?答えのない問いを問う力

今回の試験で最も驚かされたのは、問題文に「生成AI」や「機械翻訳」が登場したことです。作文を読んで「この文は生成AIにタイトルを与えて書かせたものか?」と考える問題や、「部分的に機械翻訳を使って作文を書いた学習者にどんなアドバイスをするか」という問題がありました。こうした問いに対しては、おそらく現場の教師でも明確な答えを持っている人は少ないでしょう。AIや機械翻訳を活用することが前提になりつつある現代に、教育者としてどう向き合うか、という姿勢を問われているように感じました。

その他、2023年10月に公表されたばかりの外国人労働者数からの問題があったり、2024年の登録日本語教員制度に関する問題があったりと(!)、「今まさに起こっていること」からの出題があったことは印象的でした。最新の資料に触れて、教師もアップデートせよ、というメッセージのようにも感じました。こうした試験の性質は、これから日本語教師を目指す人にとっても、日本語教育経験者にとっても意義深く、学びの多いものだと感じました。

日本語教師養成講座での学びや実践の経験が日本語教員試験の対策として有効だと感じましたか?

はい、大いに有効だと感じます。日本語教員試験は「知識」のみを問う試験では決してありません。実際、今回の試験でも人物名を問うような問題はありませんでした。暗記力だけで対応できる試験ではないというのが私の率直な感想です。

では、何が問われているのか。それは、論理的に根気強く考える力や、批判的に分析する力、相手を理解しようと対話する力です。例えば、教材のサンプルを批判的に分析する問題や、学生への適切なアドバイスを考える問題がありますが、こうした問題は、知識だけで正誤を判断するのは難しく、全体的な文脈を踏まえて解く必要があります。この訓練は一人ではなく、養成講座での活動を通して、講師や受講生の多角的な意見を聞きながら行うのが効果的でしょう。様々な世代の受講生同士で教材や教案を検討し合うことで、新たな視点が得られることもあるはずです。

日本語教員試験の問題から、これからの日本語教師に期待されることをどのように感じましたか?

先ほど著作権に関する問題が増えたとお伝えしましたが、これは言い換えれば、国家資格化に伴い、法令遵守の意識がより重視されるようになったということだと思います。「日本語を教えるのがうまい人」と「国家資格保持者」の違いについて考えてみると、後者の場合は、その仕事の社会における役割や責任を理解している、ということではないでしょうか。また、日本語教育を取り巻く最新の事情からも出題されていることから、新人もベテランも学び続ける姿勢を持つことが期待されていると感じます。2024年の登録日本語教員制度までが出題されたことは、今私たちが立っている現在地も、日本語教育の歴史の大事な1ページになる、というメッセージのようにも感じますね。さて、私なりに来年出題されるトピックを予測するなら、現在議論されている育成就労制度とか、生成AIによる著作権上の問題あたりが要注目かと思います。

これから日本語教師を目指す方に向けてアドバイスをお願いします。

ここまでのレポートで「日本語教員試験って難しそう」と思われたかもしれませんが、心配は必要ありません。合格するには、基礎試験8割、応用試験6割の正答率が求められますが、養成機関ルートの場合は基礎試験が免除なので、応用試験で6割を取ることが目標になります。この6割は、養成講座で学ぶ知識を理解していれば十分に取れるはずです。言い換えれば、一部の難しい問題に答えられなくても、落ち込むことはありません。なぜならそれは、現役の教師達も頭を悩ませている問題だからです!

日本語教員試験は日本語教員としての資質を認定するものでありながら、試験自体が教育的側面も持っている、というのが私の考えです。「疲れた~!」と試験を受け終えた時には、朝より少し成長した自分がいるのです。これから日本語教師を目指す方にメッセージを送るとしたら、「試験に出たあの問題について、あるいは教室や社会で日々起こる課題について、一緒に語ろうよ」と伝えたいですね。

最後に、日本語教員として求められる能力は、現代社会において汎用性の高いスキルだと私は思っています。たとえ職業として日本語教師を選ばなかったとしても、会社で若手を育てたり、地域社会で多様な背景を持つ人と関わったりする上で、「教育」や「異文化理解」への知見は必ず役に立つはずです。登録日本語教員という国家資格が広く認知され、多くの方が仲間になってくださることを願ってやみません。

出典

にほんご日和
https://haa.athuman.com/media/japanese/

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